第一話「シャル」第一話「シャル」空には、透き通るようなきれいな青。もう後ほんの少し時が過ぎたれば暖かな春がやって来る。 リネルの国の少し外れに森に囲まれた小さな小屋があった。その小屋に朝日の光降り注ぐ。起きてきたのは一人の少年だった。焦げ茶色の髪に、茶色い瞳。いつも黒い帽子を被っている。歳は十四か十五に見える。 彼はまだ寝惚けていた。しばらくぼんやりしていた。やっと目が覚めたのか、その場をゆっくり立ち、大きなあくびをした。 「ふわぁ~・・・」 時計は九時を回っていた。 「ぬわぁ!!」 と、驚く声が小屋中に響いた。 「うわぁ~ど、どうしよう?今日は、試験の日だよ・・・。試験は九時半からだから~。走れば間に合うかな?」 と、ぶつぶつ呟いて言った。 「か、考える前にまず行動だ!」 と、言って用意していた鞄と、キーカードを持って小屋を出た。 彼が小屋を出て十分が過ぎた。 「間に合うかな?・・・あ!やっと街が見えてきた!ぎりぎり間に合うかな?」 と、彼は走りながら言った。 「ルカ君、また寝坊したのかい?」 「うん」 「ほら、朝ご飯あげる」 ルカと呼ばれた少年は、店のおじさんにパンをもらった。 「ありがとう」 ルカは笑顔で、お礼を言った。 「ルカ君試験頑張れよー」 「うん」 いつもルカは、このおじさんに朝ご飯を貰い、応援される。 魔術学校。リネル国の最大学校。その門にルカは居た。 「キーカードをお入れ下さい」 と、門についている機械が言った。ルカは、自分のキーカードをその機械に入れた。 「キーカードを確認中・・・」 「う~。は、早く!」 後五分ほどで試験の時間だ。 「ルカ・クロスベル様ですね?どうぞお入り下さいませ」 そして、門が開いた。 「試験、私初めてなんだ~」 「へぇーそーなんだ~」 試験場には、魔術学校の生徒達が楽しそうに話していた。 「あれ?今日、ルカ先輩こないのかな?」 「えぇ~こないの?」 すると、ルカが走りながら試験場へ来た。 「はぁはぁ・・・」 「あ!ルカ先輩きたよ!」 「間に合って良かったですね!」 「う、うん」 疲れ果てたような声でルカは、言った。 「おーし、みんな揃ったなー?これから試験をするぞ。試験と言っても、そんな難しいもんじゃねぇぞ。ただ、魔術を使って自分の引いたカードのお題をクリアすればいいんだ。よーし、カード配るぞ~文句は無しだぞ」 生徒一人一人にカードが配られた。 「えぇ~私のお題・・・最悪~。ルナちゃんなんだった?」 「えーとあたしのは・・・魔術で木のおもちゃを出せ・・・だって」 「私のは虫を出せ・・・虫キライなのに・・・」 「ルカ君は?」 と、ルナと呼ばれた少女がルカに声を掛けてきた。ルカと同じ歳の、金髪の長い髪をしている。瞳の色は蒼。 「あ、僕のは咲いている花を出せ」 「お喋りは、そこまでだ。呼ばれた奴からお題をやってもらう。最初は・・・ルカ!」 「あ、はい」 ルカが試験を行う。 「(よし、やるぞ!)」 「ルカ、オレにも優等生の力見せてくれよ」 「は、はぁ」 そして、ルカは魔術を唱えた。 「ポン」 と、音がした。 「あれ?」 と、ルカの声が聞こえた。 「・・・・・・ここは・・・」 「おいおい~ルカなに出してるんだ?」 と、先生は言った。 ルカが出したのは、人間の男の人だった。ルカは驚いて、その場に座り込んでしまった。 「おい、お前大丈夫か?」 と、男の人は言った。黒い髪に黒い瞳をしていた。変わった服を着ていた。 「人間を出す魔術なんて聞いたことねぇぞ」 「そうだよね」 生徒達がざわついてきた。 「静かにしろ。ルカ、もう一度お題をやってみろ、チャンスをやる」 「は、はい」 再びルカは魔術を唱えた。 「ポン」 今度は、綺麗に咲いた花が数十本出て来た。 「よし合格。次~ルナ」 「はい」 次々と試験が行われた。 「なぁなぁお前、名前なんつーんの?俺はシャルって呼ばれてるんだ!」 「僕の名前?ルカ」 「ルカ・・・いい名前だな!」 気軽にシャルと名乗った男の人は話し掛けてきた。 「シャル、何で僕の魔術でここに来たの?」 「はぁ?」 シャルは笑いながら言った。 「ルカが呼んでいたから」 「僕が?」 「うん」 シャルは笑顔で言った。 「(詳しくは、試験が終わってから聞こう)」 「よぉーし、以上で試験は終わりだ。合格した奴は一つランク上がるからな。よし、もう皆帰っていいぞ。春休みが終わったらそれぞれのクラスの教室集合だ」 ルカは魔術学校を出た。シャルと一緒に。 「ルカくーん!」 すると、ルナの声が聞こえてきた。 「あ、ルナちゃん」 「ルナ?」 不思議そうにシャルが言った。 「ルナちゃんは、僕の友達だよシャル」 「ルカの友達?」 「そう!従兄妹なんだけどね」 「ねぇルカ君、どうやったら魔術で人間を呼べるのかなぁ?」 「僕にもちょっと解らないよ。シャルは僕に呼ばれたって言うけど・・・」 「シャル君って言うんだ!よろしくね、あたしルナ」 「うん、よろしく。(どこかで見たことあるな・・・)」 ルナとシャルは、いい友達になりそうだ。 「あ、じゃああたしここで・・・じゃあね!ルカ君、シャル君!」 ルナは笑顔でシャルとルカに手を振り、こう言った。「また明日ね」いつもこう言う。 「あ、ルカの家はどこなの?」 「えっとね、この街の少し外れにある森なんだけど・・・その中に小屋があるんだ、そこが僕の家だよ」 「遠いいのか?」 「うん・・・毎日大変だよ・・・はぁ・・・」 ルカは、ため息を吐いて言った。 「・・・ルカ、俺と手を繋げ」 「え?」 「いいから!」 ルカはシャルの言う通りにした。 「離すなよ・・・行くぞ!」 「え!?」 すると、ルカとシャルは光に包まれた。 「う、うぅ・・・」 「ルカ?眩しかったか?」 「あれ?ここは・・・?」 ルカの目の前には一つの小屋があった。近くに流れる小さな川も目に見えた。 「ここ、ルカの家だろ?」 そう、この小屋はルカが暮らしている家だったのだ。 「ここがルカの家か~いい家だな!」 笑顔で言った。確かに小屋の周りは自然がいっぱいある。花や小鳥達、木はもちろんのこと。すぐ近くには小川もあるのだから、生活には支障は無いだろう。 「(シャルって・・・一体・・・何者なんだろう・・・?)」 ルカは疑問を抱きながら、取り合えず小屋にシャルを案内したりした。 ルカは案内が終わると、シャルと一緒にベランダで紅茶を一緒に飲んだ。ベランダに並ぶ二人。ルカが一人の時にはこんな光景は目にしないだろう。 「シャル・・・シャルには帰るところはないの?」 ルカは何気なくシャルに問いかけた。 「帰る場所・・・か・・・」 シャルは紅茶を飲むのを少し止めて、考え込んだ。 「俺に帰る場所なんて・・・とっくの昔に無くしたさ・・・」 「え・・・?」 「過去に戻りたいなんて思わないさ・・・だって・・・過去に戻って同じ過ちを犯してしまうと思うと・・・今よりももっと悲しみが・・・増えるだけさ・・・悲しみをまた味わうのは嫌だしね」 笑顔で言った。その笑顔はどこか淋しいそうな・・・感じだった。 「シャル・・・ごめん・・・なさい」 ルカは泣きに耐えられない顔で言った。 「ルカ・・・大丈夫、心配しないで・・・」 「帰る場所が無いの・・・?」 「あぁ・・・・」 ルカは少し考え込んで、紅茶を飲み終え、そして言った。 「シャル!ここが帰る場所だよ!・・・うまく言えないけど・・・この家がシャルの変える場所になればいいんだよ!」 シャルは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。 「いいのか?」 「うんっ!いいよ!僕も一人で寂しかったし・・・シャルがそれでよければ一緒に住もうよ!」 シャルが満面の笑みで大きく頷いた。 ルカは予備のベットの場所へシャルを案内した。それからしばらく、一緒に色々話たり、料理をしたり。 そのあとあっという間に夜になり、明日の為に寝ることにした。 しばらくシャルと過ごすルカ。この出会いがルカを大きく変えるとは、誰も思わなかった。 【第二話へ続く】 第二話へ飛べます ジャンル別一覧
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